ー甲斐健の旅日記ー

仙巌園/風光明媚な島津氏の別邸~近代化事業(集成館事業)誕生の地

 仙巌園(せんがんえん)は、鹿児島市の北部にある薩摩藩主・島津氏の別邸跡です。敷地面積は庭園も含めて5万平方メートルです。万治元年(1658)、戦国武将として名高い島津義弘の孫で第2代薩摩藩主だった光久によって建造されました。仙巌園の名は、中国江西省の景勝地・龍虎山仙巌にその景色が似ていたことから名づけられたといいます。借景(しゃっけい)技法を用い、桜島を築山に、錦江(きんこう)湾を池に見立てた壮大な庭園は、数ある大名庭園の中でも類を見ないスケールだといわれます。幕末には、第11代藩主・島津斉彬(なりあきら)が、この敷地の中に鋼鉄製の砲身を鋳造するための反射炉やガラス工場を建設し、近代化事業(集成館事業)を推進しました。斉彬は欧米列強の東アジア進出に危機感を感じ、軍備の近代化による防衛力の強化の必要性を痛感していました。この事業は、第12代藩主・島津忠義(久光の息子:今上天皇の曽祖父)に引き継がれ、集成館機械工場(現・尚古集成館本館)や日本初の近代紡績工場などが建設されました。これら薩摩藩の工業技術は、明治以降日本各地に伝わり、日本の産業の近代化に大いに貢献したといいます。現在、尚古集成館本館は現存しており、博物館となっています。館内には、当時使われていた工作機械や、近代化へのストーリーを説明するパネルなどが展示されています。

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 仙巌園へは、「まち巡りバス」や「シティービューバス」に乗って「仙巌園前」で下車するのが便利です。

 園の入り口から入って、まず目に飛び込んでくるのが鉄製の「150ポンド砲(150ポンド≒68㎏の砲弾を装着できる)」です。大人一人の体重に匹敵する砲弾を発射するのですから、かなり巨大です。そしてその奥に、この大砲の砲身を製造するための「反射炉跡」の石垣が見えます。反射炉とは、砲身の型に流し込むために、鉄を高温で溶融する炉です。幕末の藩主・島津斉彬が、外国の侵略に備えるために、富国強兵政策の一環として建造しました。石垣にある階段から上へあがると、炉床の下部構造を見ることができます。すのこ状に配置された石組は、風通しを良くして、湿気が炉内にたまり鉄が酸化することを防ぐための工夫です。また、灰落としのために石組みが傾斜しており、その上にロストル(火床)があり木炭や石炭といった燃料を燃やしていました。

 反射炉跡から順路に従って少し歩くと、右手に「示現流・自顕流展示室」があります。示現流と自顕流は薩摩に伝わる剣術の流派です。展示室では、二つの流派の説明や映像を見ることができます。また、体験用の木刀があり、手に取ることができます。この展示室に並ぶように「正門」が建っています。明治28年(1895)に建立されたものです。瓦と門の上部には、丸に十字の島津家の家紋が見て取れます。この門は、平成20年(2008)に放映された大河ドラマ「篤姫」の中で、江戸の薩摩藩邸の門としてたびたび登場したものだそうです。

 さらに先に進むと、朱色に塗られ白銀色の錫で葺かれた屋根を持つ「錫門(すずもん)」があります。これが江戸時代の正門だったといいます。当時は藩主とお世継ぎしか通ることを許されなかったそうですが、今はもちろん誰でも通ることができます。錫門をくぐると、薩摩藩主の別邸だった「御殿」があります。明治初期には、鶴丸城を明け渡した第12代藩主・島津忠義がここに住み、本邸としました。有料の「御殿ガイドツアー」で、御殿内を見学できます。

 御殿の南に「望嶽楼(ぼうがくろう)」が建っています。その名の通り、桜島(嶽)を眺める(望)ためにつくられたあずまや(楼)です。仙巌園をつくった島津光久の時代に、琉球王国から献上されたという中国風のあずまやです。歴代の藩主が琉球からの使者と面談する際に使われた建物です。幕末には、島津斉彬と勝海舟がここで会談を行ったと伝えられています。

 望嶽楼からは、曲水の庭、江南竹林の脇を通り水道橋を渡る散策コースです。さらに坂を上った小高い場所にレストランや薩摩切子ギャラリーショップがありますが。このあたりからの桜島の眺望が特段に素晴らしいと思います。撮影スポットです。

 園の受付入口の西側には、「尚古集成館」があります。西欧列強のアジア進出に危機感を持った島津斉彬は、「集成館事業」によって近代産業の育成と軍備の近代化をすすめていきました。この事業は、第12代藩主・忠義に引き継がれ、慶応元年(1865)に新たに機械工場が建設されました。その建物が、現在の尚古集成館本館です。現在は別館とともに、集成館事業を今に語り継ぐ博物館となっています。館内には、反射炉や琉球船の模型、当時稼働していた様々な工作機械の実物などが展示されており、「集成館事業」に国と藩の命運をかけていた薩摩の人々の切実な思いが感じとれる貴重な空間となっています。



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