ー甲斐健の旅日記ー

蓮華寺/多くの著名人が再興に関わり、今も往時の面影を残す寺院

 蓮華寺(れんげじ)は京都市左京区にある天台宗の寺院です。山号は帰命山(きみょうざん)と称します。鴨川源流のひとつ高野川の上流、若狭街道(かつては若狭湾で捕れた魚介類を京都に運ぶ物流ルートで「鯖街道」と呼ばれた、国道367号線)沿いに建つ寺院です。

 蓮華寺は、もともとは七条塩小路(現在のJR京都駅付近)にあった西来院という時宗の寺でした。応仁の乱で全焼し荒廃していましたが、それを寛文2年(1662)に、加賀前田藩の家老だった今枝近義が再興しました。蓮華寺という寺号は、かつてこの境内地にあった、廃寺の名から取ったといいます。この地は、かつて近義の祖父重忠の庵があった土地でした。重忠は、豊臣秀次に仕えた後、前田家に奉公しました。晩年になって得度して、この地に寺院を建てることを願っていましたが、それを孫の近義が実現させたということです。祖父の菩提を弔うために、この蓮華寺を創建したのです。近義は、比叡山延暦寺から実蔵坊実俊(じつぞうぼうじっしゅん)という僧を招き開山としました。これにより蓮華寺は、天台宗の寺院となりました。

 この蓮華寺の再興に当たっては、石川丈山(いしかわじょうざん:江戸初期の代表的詩人、書家)、木下順庵(江戸前期の儒学者)、画家の狩野探幽、黄檗宗(おうばくしゅう)の開祖である隠元禅師、その第二世の木庵禅師ら当代の著名人たちが援助したといわれています。

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 蓮華寺へは、京都駅からですと、京都バス17または18系統の大原行に乗り、「上橋(かんばし)」で下車します。蓮華寺はバス停のすぐ北(バス道路沿い)にあります。

 入口の山門は、創建当時の姿を今に残しているといいます。この山門をくぐって境内に入ると、すぐ左手に石仏群が並んでいます。約300体ほどあります。京都市電河原町線の敷設工事の際に発掘されたものだそうです。中央に地蔵菩薩像があり、周囲に大日如来像が並んでいます。山門をくぐってすぐ右手にある鐘楼は、宝形造(ほうぎょうづくり)で、檜皮葺(ひわだぶき)の屋根と格子状の側面を持つ禅風様式の建物です。梵鐘には「黄檗二世 木庵瑫山(とうざん)僧」の銘が刻まれています。参道右手奥に見える土蔵は、明治5年の学制発令まで、男女共学の寺子屋として使われていたそうです。

 山門から石畳の参道を進むと庫裏(くり)の玄関があります。ここから建物の中に入ります。まずは阿弥陀三尊像が祀られている部屋を通り、書院に入ります。書院の東側に、「鶴亀の庭園」と呼ばれる池泉回遊式(ちせんかいゆうしき)庭園があります。山の岩壁と部屋の間を、高野川から引きこんだ清水が流れています。蓮華寺再建時の寛文年間に作庭されたといわれます。この庭園は、浄土宗的な形式に従い、池の対岸を浄土としています。池は「水」の字の形に作られており、「水字形」といいます。池の右手前には、舳先を建てた入船の形をした舟石(ふないし)が置かれています。入船とは、船の舳先が手前を向いており、こちら側(俗世)に浄土を見出すという思想が表現されているといいます(反対は出舟といいます)。池の左前方に、亀島と鶴石があります。亀島には石橋がかけられ、唐人帽丸形と称される石灯籠が置かれています。その横に寄りそうように立っているのが鶴石です。亀島の左後方に、蓬莱山の姿が岩組みによって表現されています。

 書院から見て右手にあるのが本堂です。現在見る建物は、江戸時代初期に再建されたといいます。書院の反対側が正面で、堂の前には、蓮華寺型灯籠が二基立っています。蓮華寺型灯籠は、六角形の基礎に丸い竿が立ち、中台は六角形で唐草文様があしらわれ、火袋(ひぶくろ:灯りをともすところ)も六角形で前後に四角い穴があいています。傘は長めで急勾配な形をし、頂上に宝珠がのっています。本堂の造営には、黄檗宗の僧が関わったこともあり、建築様式は黄檗宗のものとなっています。入口には、石川丈山筆の寺額が掲げられています。堂内中央の須弥壇(しゅみだん)上の螺鈿(らでん)厨子(ずし)には、本尊の釈迦如来像が安置されています。この螺鈿厨子は、明朝初期の中国製で加賀藩が中国から輸入したものとされます。本尊左には阿弥陀如来像(鎌倉時代作)、右には螺鈿厨子の中に不動明王像(秘仏)が安置されているとのことです。また天井には、かつて狩野探幽筆の龍の図があったのですが、明治期に失われ、現在は昭和53年(1978)に仏師西村公朝(こうちょう)が復元したものがあります

 蓮華寺は小さい寺院ながら、その再興に際しては、石川丈山、木下順庵、画家の狩野探幽、黄檗宗の開祖である隠元禅師ら著名人が関わり、諸堂や庭園は往時の面影をそのまま残している貴重な文化遺産といわれます。落ち着きのあるとても良い寺院だと思います。大切な人と二人で訪れるのがピッタシかもしれません。



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