ー甲斐健の旅日記ー

函館・称名寺/箱館戦争で土方歳三ら新撰組の屯所となった寺院

 函館市の称名寺(しょうみょうじ)は、函館市船見町にある浄土宗の寺院です。創建は江戸時代初期で、正保元年(1644)に伊勢の国から渡来した円龍という僧が、亀田村(現・函館市八幡町あたり)に開いた阿弥陀庵が始まりとされます。その後阿弥陀堂と改称し、元禄3年(1690)に北海道松前町にある光善寺(現存)の末寺として称名寺と称するようになりました。さらに宝永5年(1708)に富岡町(現・函館市弥生町)に移り、本堂を建立するなど伽藍(がらん)の整備が行われました。しかし、明治12年(1879)の大火で焼失したため、翌々年現在地に移転しました。その後も何度か大火に見舞われたため、昭和4年(1929)に鉄筋コンクリート造りの本堂が再建され、現在に至っています。

 称名寺は、函館市内では高龍寺に次いで2番目に古い寺院です。箱館奉行交代の際の仮本陣として使われたこともあります。また、和親条約締結によって伊豆の下田とともに箱館が開港されたときは、イギリスやフランスの領事館となったこともありました。さらには、旧幕府軍(榎本武揚、土方歳三ら)と新政府軍が激しい攻防戦を繰り広げた箱館戦争の時には、新撰組残党の屯所が置かれたこともありました。それ故境内には、土方歳三及びその隊士の供養碑など、偉人の墓碑が多く残されています。

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 称名寺へは、市電5系統に乗って「函館どっく前」で下車します。ここから南西へ延びる坂道(魚見坂:うおみざか)を上っていきます。三つ目の信号(船見町交差点)を左に曲がって100mほど歩いた右手に称名寺の山門があります。

 山門をくぐると正面に鉄筋コンクリート造りの本堂がみえます。入母屋造(いりもやづくり)で、正面入り口には唐破風(からはふ)が施されています。境内には、多くの偉人の墓碑が並んでいます。まず本堂の手前左には、土方歳三と新撰組隊士の供養碑が建っています。榎本武揚(たけあき)らとともに蝦夷地に渡り、箱館五稜郭で「蝦夷共和国」を樹立して新政府軍と戦った新撰組副長土方歳三は、新政府軍が総攻撃する中、苦戦を強いられていた弁天砲台(現・函館市弁天町)へ援軍としてはせ参じる途中、一本木(現・函館市若松町:諸説あり)で敵の砲弾を受けて壮絶な最期を遂げたといいます。その歳三と、彼とともに箱館戦争に参戦した新撰組隊士を供養する碑です。3度の大火でオリジナルは現存せず、現在あるのは昭和48年(1973)に有志が建立したものです。

 土方歳三供養碑のすぐわきに、高田屋嘉兵衛の顕彰碑があります。また、本堂の南側には、高田屋嘉兵衛一族の墓があります。高田屋嘉兵衛は、明和6年(1769)、淡路島の農家の長男として生まれました。22歳の時船乗りに転身し、そこで資金を貯めて北前船を入手し運送業を始めました。寛政10年(1798)箱館(明治2年から函館に改名)に支店を開き、蝦夷地に進出しました。嘉兵衛の商売は、兵庫で酒、塩、木綿などを仕入れて酒田に運び入れて売り、酒田で米を購入して箱館に運んで売り、箱館では魚、昆布、魚肥を仕入れて上方で売るというものでした。これで莫大な富を得た嘉兵衛は、箱館の殖産興業に多大な貢献を果たしました。さらに、国後島と択捉島の航路を開拓し、択捉島では17か所の漁場を開きました。幕府からは「蝦夷地定雇船頭(えぞち じょうやとい せんどう)」を任じられ、名字帯刀を許されました。また、当時緊張状態にあったロシアとの関係修復にも一役買っています。

 本堂南側には、河野加賀守政通の供養塔があります。河野政通は伊予(愛媛県)の出身で、享保3年(1454)、主君・安東政季(まさすえ)が蝦夷地に渡ったとき、武田信広(のちの松前藩の始祖)らとともに蝦夷地へ渡りました。政通は現在の基坂(もといざか:函館市末広町)の上に館を築きましたが、その形が方形だったため「ハコダテ」と呼ばれ、これが箱館の地名の由来となったといいます。なお、この館は、アイヌと和人との戦いであるコシャマインの戦いで、永正9年(1512)に陥落しました。この碑は、宝暦3年(1753)に松前藩の亀田奉行が建てたものです。

 なお、観音堂の前には、「第二次世界大戦 函館空襲戦災跡地 戦災者慰霊碑」があります。昭和20年(1945)7月13,14日、アメリカ軍の爆撃機により、函館港内や津軽海峡航行中の船舶85隻が爆撃され多くの犠牲者が出ました。また函館市街地も爆撃され、多くの死傷者を出しました。その供養碑です。

 境内奥、本堂の東には、宝物堂があります。北海道最古の板碑で道指定有形文化財の「貞治の碑」(貞治6年<1367>作: 死者の追善供養のための塔婆)や十一面観音立像、阿弥陀如来像が拝観できます。



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