ー甲斐健の旅日記ー

総見院/織田信長の葬儀が行われた大徳寺の塔頭寺院

 総見院(そうけんいん)は、京都市北区紫野にある大徳寺の塔頭(たっちゅう)寺院です。 戦国時代、天下布武を目指しながら、あと一歩のところで夢破れた織田信長の菩提寺でもあります。

 天正10年(1582)、本能寺の変で織田信長を自刃に追いやった明智光秀を、山崎の戦で滅ぼした羽柴秀吉は、天下取りの足掛かりとするため、大徳寺で信長の葬儀を取り仕切りました。信長の四男で秀吉の養子となっていた秀勝を名目上の喪主とし、香木で彫らせた信長の木像を棺に入れ荼毘(だび)に付しました。その時の香木の甘い香りは、京中に漂っていったといいます。まさに信長の後継者は自分(秀吉)だということを、多くの人々に知らしめたかったのかもしれません。この時彫られた信長の木像は二体あり、残りの一体は、現在も総見院に安置されています。 総見院は、信長の一周忌に秀吉が建立した寺院です。開山は、大徳寺117世・古渓宗陳(こけいそうちん)です。寺の名前は、信長の法名(総見院殿贈大相国一品泰巌尊儀)からとったものです。江戸時代には200石の寺院でしたが、明治維新直後の廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)運動によって、伽藍(がらん)の多くは灰と化し、多くの宝物も失われてしまいました(信長の木像は、難を逃れて無事だったそうです)。その後、大正年間に再興され、昭和36年(1961)には、大徳寺本山に安置されていた信長木像を迎え、信長公380年忌が行われました。

 なお、総見院は通常非公開ですが、春と秋に特別公開されています。

このページの先頭に戻ります

 総見院のある大徳寺へは、京都駅から市バス205,206系統に乗り、「大徳寺前」で降りるとすぐです。バス停交差点を少し北に行く(旧大宮通)と左手に駐車場がありその先に総門があります。またはバス通り(北大路通り)沿いにある南門から入ると、ひっそりとした松並木と築地塀のある参道があります。喧騒を離れ、静かで落ち着いた雰囲気で境内に入ることができます。総見院は、南門から入って三門仏殿法堂(はっとう)と並ぶ大徳寺伽藍(がらん)を右手に見ながら北へ進み、法堂に着いてから左(西)に曲がって少し歩くと右手にあります。

 総見院の正門を入ってすぐ正面に、信長の葬儀が行われた本堂があります。かつてあった禅堂を、昭和3年(1928)に改修・復興した建物です。堂内には、木造の織田信長坐像が安置されています。高さ115cm、衣冠帯刀の坐像で、信長の等身大(信長の身長は160cmといわれる)の像です。天正10年(1582)、運慶・湛慶の流れを汲む仏師・康清(やすきよ)の作といわれます。本堂西にある掘り抜き井戸は、加藤清正が朝鮮から持ち帰った朝鮮石を彫りぬいた井戸です。今なお井戸水がこんこんとわき出ており、毎朝のお供えの水に利用されているそうです。ところで清正が何故こんなに重い朝鮮石を持ち帰ったかというと、あまりにも戦死者が多くて船が軽くなりバランスがとりにくくなったため、「重し」としてこの石を乗せて日本に引き上げてきたからだといわれます。

 境内西には、信長一族の墓石(7基)が建っています。またその左奥には、正室の帰蝶(濃姫)、側室のお鍋の方の墓碑があります。本堂横にある侘助(わびすけ)椿は、秀吉が千利休から譲り受けて植えたといわれ、秀吉がこよなく愛した椿だといいます。樹齢400年で日本最古の侘助椿だそうです。三本に枝分かれした先には紅白の花が咲き、茶人に珍重される花だといわれます。また本堂の前にある茶筅(ちゃせん)塚は、文字通りお茶をたてるときに使う茶筅の供養塔です。花立が茶筅の形をしています。毎年4月28日には、茶筅供養が行われるそうです。

 総見院の茶室は三席あります。信長を追悼するために開かれた大徳寺大茶会(天正13年;1585年)では、ここ総見院で、秀吉が自ら茶をたてたといわれます。一番北にある寿安席(じゅあんせき)は、尾道出身の実業家山口玄洞(げんどう:1863~1937)が寄進した8畳の茶室で、一休禅師の掛け軸がかけられています。龐庵(ほうあん)には、表千家・而妙斉(じみょうさい)の筆による扁額がかかっています。3畳の茶室です。香雲軒(こううんけん)には、8畳の茶室と、書院(20畳と12畳)があります。

 創建当時のまま残っている建造物が、正門・土塀(正門から西側部分)と鐘楼です。総見院の土塀は、「親子塀」と呼ばれ、塀の内部にもう一つ塀が設けられている二重構造となっている珍しいものです。その理由は、塀の強度を増すためだったとも、内部の空洞部分に非常時に武士が隠れるためだったともいわれます。また正門の外に立つ鐘楼は、信長の家臣・堀久太郎秀政の寄進によるもので、鐘の銘文は、開山・古渓和尚の作とされます。



このページの先頭に戻ります

このページの先頭に戻ります

追加情報

このページの先頭に戻ります

popup image